32.おそばまだ!?
なのは達が固まるのは見ながら俺はヴィヴィオの耳をつまむ。 こうするとヴィヴィオはこしょぐったいのか肩で耳をさする仕草をとる。 これがなんとも可愛らしい。
さて、そろそろはやてが此処にくる頃合いだと思うんだが──
ピンポーン
「おー、ちょうどいいタイミングじゃねえか。 はいはーい!」
足早に玄関に赴く。 ヴィヴィオも来客に興味あるらしくその小さい足で俺と一緒に併走しながら玄関までの距離を走る。
玄関のドアノブをひねり開けた先には、幼馴染にして一番ウマが合うかもしれない女、八神はやてが片手を上げながらこちらをニコニコとみていた。 黒に近い茶で、なのはやフェイトよりも短く揃えられた髪だからか明朗快活というイメージをもつ。 実際明朗快活なのだが。
なのはやフェイトたちが所属している機動六課の部隊長でありながら、一番仕事をサボる女である。
「わるいな、付き合ってもらって」
「ええでー、それくらい」
手に持っていた買い物袋を受け取る。 野菜や肉、魚など色々と買ってきたようだ。 人数が人数なのでかなりの量であるが……はたしてこれで足りるかな? 足りなかったら買いに行くか。
ドアを全開まで開け、はやてを中に招き入れる──ところではやての視線が俺の下腹部に注目されていることに気が付いた。
「おいおい、はやて。 いくら俺とお前の仲だからって会ってすぐ合体はマズイって。 俺にはなのはとフェイトという心に決めた二人がいるんだからさ。 いや、はやてがどうしてもっていうのならしょうがないんだけどね? 俺もさ、なのはとフェイトのことを考えると心が痛いけど、しょうがないような気がするんだ。 うん。 ヤろうぜ?」
スマイルを浮かべてはやての手を握る──直前に気付いたのだが、いつの間にか5本ともが指が反対方向に曲げられていた。
「うおおおおおおおおおおおッ!? いつの間にか指が大変なことにッ!?」
「え? どしたん? あ〜、それ痛いで〜」
「お前だろっ!? お前がヤったんだろ!? 頭おかしいんじゃねえのかっ!?」
「あんたにだけは言われたくないわ」
はやてが溜息を吐きながら、俺の指に自分の手を包み込む。 それから数秒包み込んだあと、はやてがその手を離すと指はすっかり元通りに戻っていた。 おかえり、俺の指。
「……魔法ってすげぇな」
「わたしが凄いんや」
まぁ確かにそうだけどさ。
「それより……さっきから気になってるんやけど……その娘、だれ?」
はやてが俺の下腹部を指さす。 正確に言えばその近くにニコニコと俺の手を握りながらはやてを見ているヴィヴィオを指さす。
「あぁ、この娘はヴィヴィオ。 俺とフェイトの子どもでさ。 ついにできたんだ!」
「時空管理局本局 古代遺物管理部 機動六課所属 八神はやて二等陸佐です。 拉致監禁の罪で逮捕します。 同行してもらえますね?」
「予想通りの反応ありがとう。 そういうとこ好きだぜ、はやて」
それと冗談だから手錠つけないでくれるかな?
「まぁ……なんというか……新しい家族……かな? ヴィヴィオ、このママたちよりもおっぱいが残念なお姉ちゃんに挨拶は?」
「こんにちは! ヴィヴィオです!」
「こんにちは〜。 なのはちゃんとフェイトちゃんの幼馴染の八神はやてです。 ヴィヴィオちゃん、よろしくな〜。 えらいな〜その年であいさつなんてできて。 なのはちゃんとフェイトちゃんの教育がいいんやな。 ミジンコ以下のゴミがいる家なのにこんなニコニコした笑顔を浮かべれるなんて……はぁ〜、もらってええ?」
「その前に謝れよ、俺に」
「……え?」
なんでこいつは不思議そうな顔で俺のことを見ることができるんだ。
「残念ながら、ヴィヴィオはわたしの天使なのであげられません。 なのは&フェイトとガチで戦う覚悟があればどーぞ」
「うっ……ガチはあかんで、ガチは。 アンタとならガチで戦うけど」
「……俺も一応、お前らが守る範囲の中にはいってるからな?」
「管理局は人々の平和を守ります(ひょっとこは攻撃対象で)」
「どんな方向だよっ!?」
か弱い俺がすぐに負けちゃうじゃないか。
「はっは。まぁ、冗談や。 ひょっとこの場合、周りがアレすぎて戦おうとも思わんで。 人外やら化け物やら変態やら魔物やらが攻めてくるかもしれへんしな」
「その内の7割が父さんの知り合いだけどな。 主に人外やら化け物やら魔物やら。 本当にすごいのは俺じゃなくて父さんだよ」
世界は広い。 なんて言葉があるが、あまりにも広すぎる。 そしてその中にはもちろん人じゃないモノたちも多く存在してる。 吸血鬼や龍。 食人植物や人の姿をしてるけど明らかに人とは異質な存在。 そんな奴らが世界には堂々と跋扈していたりする。 俺が地球からでなければ知らなかったことだ。 そしてもっと知らなかったこと。 それは、父さんがそんな存在とも知り合いで友達だったということである。 色々と規格外だった存在だけど、どこまで規格外なら気が済むんだ……。 というか、父よ。 比喩ではなく本当に魔法使いなんて存在じゃなかったのか?
「ひょっとこより規格外な存在なんてわたしには扱えんで……」
「……母は偉大だな」
笑顔を浮かべながら父さんにクラッチをきめていた母さんを思い出す。 もしかしたら母さんSSSランクだったかもしれない。
「まぁそれはそうと……ずっと思ってんやけどな? そろそろパンツ履けよ」
「あれ? やっぱズボン越しでもパンツ履いてないのがわかる?」
「当たり前や。 そんなもん一般常識やで」
彼と彼女の常識を世間一般的な常識にされると困るのが大半の意見である。
「いや〜、でもさ。 ミッドに来て驚いたことの一つだよ。 ズボン履いたままパンツだけ脱ぐ方法をみんなが会得してないってこと。 中学のときに男子は必修だったんだが……」
「わたしはスカートやからな。 そんなスキル必要ないで。 まぁ、習うのは自由だったけど」
「好んで習うほどでもないからな〜、女子の場合」
うんうん、とふたりして頷く。
そんなとき、俺の袖をクイクイっと引く娘がいた。 言うまでもなくヴィヴィオである。 はやてと話し込んじゃったし……退屈させたかな?
「あ〜、ごめんな。 もう中にはいるから」
「ううん、ちがうの。 ねぇねぇ、スカさんたちくるー?」
あぁ、そういえばヴィヴィオはスカさんには会ってないもんな。 そりゃスカさん達に一番会いたいのはヴィヴィオだよな。
無垢な瞳を見ながら、俺は携帯を取り出しスカさんの番号にかける。 ちなみに顔写真は幼女のパンツをとって狂喜乱舞している姿である。
「あ、もしもし? スカさん?」
『おぉ、ひょっとこ君か。 どうしたのかね?』
「あー、ちょっとまって。 いま代わるから。 はいヴィヴィオ。 スカさんだよ」
スカさんの声がいつも通りなのを確認し、ヴィヴィオに携帯を渡す。 ヴィヴィオは携帯を受け取ると?マークを浮かべながらパンツをもって狂喜乱舞しているスカさんの顔写真をマジマジとみていた。
「いやいや、ヴィヴィオ。 あんまり見るとスカさん可哀相だから。 ヴィヴィオに見せたくない一面がスカさんにもあるからさ」
例えば幼女のパンツをとって狂喜乱舞している姿とか。
俺はヴィヴィオの耳に携帯を当てる。
『ひょっとこ君? どうしたんだい? 返事がないなら私が書いた官能小説をだね──』
「あ! スカさんのこえがきこえるよ〜!」
『うぉっほん! やぁ、ヴィヴィオ君。 ちゃんと良い子にしてるかな? 私のほうは偉大な研究のレポートを書いていてね』
スカさん今更遅いよ。 偉大なレポート=官能小説という式が成り立ったよ。
「ほら、ヴィヴィオ。 スカさんに、来てくれるか聞こうぜ」
「うん! ねぇねぇ、スカさん?」
『なんだい、ヴィヴィオ君。 おもちゃが欲しいのかい? ちょっとまってくれないか。 いま幼女が使っても問題ないおもちゃを作るから。 大丈夫、ウーノが運んでくれると思うだろうし』
「い〜ら〜な〜い〜!」
スカさん少し黙ってくれよ。 そう思った瞬間、俺の願いが届いたのかスカさんの電話口から床に倒れるような音が聞こえてきた。 たぶん、ウーノさんあたりが黙らせたんだろうな。
「ほら、ヴィヴィオ。 いまがチャンスだよ」
「うん! ねぇねぇ、スカさん。 おそばたべるー?」
『ん? 蕎麦かい? いや、今日の夕食で蕎麦は食べないが……。 ウーノ、今日の夕食は?』
スカさんが隣にいるであろうウーノさんに献立の内容を聞く。 なんだかヴィヴィオが泣きそうなんだけど……
俺はヴィヴィオの耳に当てていた携帯を自分の耳に当て、スカさんにヴィヴィオの真意を説明することに。
「違うよ、スカさん。 ヴィヴィオが蕎麦を食べたいらしくてね。 俺が大量に買ってきたんだ。 その量があまりにも多いので知り合い呼んで蕎麦パーティーしようと思ったのさ。 それでヴィヴィオは真っ先にスカさん達に来てほしくて電話したのさ」
『ヴィヴィオ君が私に……?』
「そうだよなー、ヴィヴィオ」
「うん!」
そりゃ俺なんかよりもよっぽど会いたいよな。 家族みたいなもんだし。
「それでスカさんの返事は?」
俺の問いに電話越しからは沈黙が返ってくる。 と、思った瞬間──
『うっほおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!! 行く! ヴィヴィオ君のお土産もって絶対にいかせてもらおう!! ウーノ! すぐに準備だ! まずは清潔感を出すために風呂へ!』
「「いったぁ〜……!」」
スカさんの大音量に俺とヴィヴィオは思わずうずくまる。 スカさんはしゃぎすぎ。 気持ちはとてもわかるけど。
「それじゃスカさん、まってるよ」
『まっててくれたまえ! 最近開発した自立型移動ロボットで颯爽と登場してくるから!』
管理局員がいるのによくやろうと思うな。 押収されて終わるぞ。 それかおっさんが破壊して終わるぞ。
はしゃぐスカさんの声を聞きながら終了ボタンを押す。
「よかったなヴィヴィオ。 スカさんたち来てくれるってよ!」
「わーい! なのはママー! フェイトママー!」
なのは達がまつ所へ走っていくヴィヴィオ。 ヴィヴィオの笑顔をみると、こっちまで嬉しくなってくる。
そんなヴィヴィオの姿を見ながら、はやてをすっぽかしていたことに気が付いたのだが、とくに慌てることもなくはやてのほうに視線を向ける。
「どうだった? ヴォルケンのみんなは来れるって?」
「もち。 たったいま電話で確認とってきたで。 エリオとキャロも一緒につれてくるから心配なしや。 スバルとティアはなのはちゃんに電話させよ。 面白いことになりそうやし」
ピースするはやてにこちらもピースで返す。 用意がいいはやてのことだから、あの間に電話で確認してると思ってました。 そして同じこと考えてました。
「んじゃ、中にはいってくれ。 期待してるぜ、はやて」
「まかしときー」
はやての手をとって中へと招く。
さてさて……あまり時間もないので早く作らないとな。