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71.男たちのビーチフラッグ



 ようやく昼のピークが終わりを告げた。 結局のところ、サメやらタコやらは他の客にも出すことにして、少しでも量を減らすこととなったわけだが……。 何分、サメ料理は初めてのことなので勝手がわからなかったがそれでも客においしいと言ってもらえたので嬉しい限りだ。

 俺はそのまま若干疲れた足取りで海の家に置いてあるサイダーを一本貰って皆のいる場所へと歩いていく。

 白砂のなんともいえない感触が少しではあるが、子ども心を湧き立たせる。

 そうして歩いていると、ヴィヴィオが俺の姿に気づき手を振ってくれた。 それに俺も振り返してそのままパラソルのほうにお邪魔する。

 さて……どこに座ろうか。

 目の前にはシートをいっぱいいっぱいに広げた場所に全員が座っていて、俺の座る場所など残っていなかった。

 ……しょうがない、陽の当たる所でもいいか。

 そう考えてシートのはずれに腰かけよう──としたところで誰かが横から俺の手を握った。

 手を握った相手はフェイト。 そしてそのフェイトの横には狭いながらも空白ができていた。 フェイトはそのまま俺の手を掴んだまま、逆の手で空白部分を少しだけ指で指さす。 どうやら此処に座れ、ということらしい。 これはありがたい。 軽くお礼をいってそこに座ることに。

「はい、俊。 確保しといたよ」

「サンキュ、フェイト。 あ、サイダー飲む?」

「うん、ありがと」

 フェイトから自分用の料理を渡されたので、ついつい無意識にサイダーを飲むか聞いてしまった。 ……まぁ、飲み物はまだあるしいいか。

 フェイトにサイダーをあげて、自分は割り箸で料理を食べる。 どれもこれも意外と上手くいった、と自分の中で思った。

「これからどうする?」

「う〜ん……大人組がきたしなんか大人数でするスポーツやるか? ビーチフラッグとか」

「それ大人数じゃできないよ?」

「トーナメントとか?」

「うーん……」

 どうやらフェイト的にはビーチフラッグはあまりよろしくないらしい。 難色を示している。

 俺とフェイトが二人で考え込んでいると、目の前に白の水着が忽然と姿を現した。 思わずその水着につられて上を見上げてると──

「私達に挨拶抜きとはいい度胸じゃない?」

「あ、アリサちゃんダメだよ!? 俊君いま帰ってきたばかりなんだから!」

 ……そういえば、アリサ達も呼んでたな。 すっかり忘れてた。

「よお、アリサ。 その水着可愛いな」

「そりゃどうも。 それより、えらく疲れてるわね。 流石のアンタもあの人数を捌くのは骨が折れるのかしら?」

「まぁ若干ではあるものの疲れたよ。 いや、それよりごめんな。 呼んでたのに無視しちゃって」

「べつにいいわよ。 アンタは一つのことに集中すると他のことが見えなくなるし。 大方、フェイトと一緒にいることに夢中だったんでしょ?」

「い、いや……べ、べつにそういうわけじゃないけど……」

 何故バレた。 俺がフェイトとの至近距離のこの状態を楽しんでいることが何故バレた。

「そ、そうなの?」

「い、いや……まぁ……うん。 ほ、ほら、帰省してからあまりフェイトと喋れてないし、できればこういったときに喋っておきたいな〜、なんてことを思ってたり」

 少なくとも、なのはやはやてよりも喋ってないし。 ちょっとフェイト成分が足りなくなってきた。

「そ、そうなんだ……」

「お、おう……」

 互いに会話が途切れる。

 き、きまずい……。

 ちなみにアリサとすずかの水着はともにワンピースタイプでアリサが白、すずかが紫だ。 さほど興味ない。

 フェイトとの会話が止まってしまうと、今度は前から俺の足をヴィヴィオが叩いてきた。

「パパ、ヴィヴィオおさかなたべたい!」

 そういって手に持っている皿を指さす。 成程、まだ食べ足りなかったのか。

「んじゃ、パパの膝においで。 はい、あーん」

「あーん!」

 ヴィヴィオを膝にのせて、箸でヴィヴィオの小さな口にも入るほどの大きさに切り身を切り大きく開けたヴィヴィオの口にゆっくりと入れる。

 ヴィヴィオはもぐもぐと咀嚼すると笑顔で

「ヴィヴィオもやる!」

 と俺の皿を笑顔で取った。 そのとき、醤油が俺の乳首にはねたが気にしない。 流石ヴィヴィオ、こんなときでもパパのツボを心得ている。

「はい、あーん!」

「ヴィヴィオちゃーん、ちょっと大きいかなー。 パパの口はそこまで大きくないからねー」

 魚を切り身をそのまま手に取って俺の口に強引にねじ込んでくるヴィヴィオ。

 成程、これがイラマチオですね。

 本気で苦しいです。

「こ、こらヴィヴィオ!? 俊がタップしてるからやめようね!?」

 笑顔で押し込んでくるヴィヴィオの手をフェイトが慌てながら止めてくれる。 あぶねぇ……フェイトが助けてくれなかったら口腔内を魚の切り身に蹂躙されて凌辱されてそのまま絶頂するところだったぜ。 切り身相手に絶頂とかいくらなんでも悲しすぎる上に間違いなく変態扱いされてフェイトから嫌われる。

 フェイトから止められたヴィヴィオは俺の顔を覗き込みながら、「ごめんね? ごめんね? パパ大丈夫?」 と謝ってくる。

 そんなヴィヴィオが可愛くて頭を撫でながらついつい許してしまった。

 ヴィヴィオには勝てそうもない。

 そんなヴィヴィオの横をふとみるとガーくんが物欲しそうに俺をみていた。

「ガーくんも食べる?」

「タベルタベル!!」

 聞くとガーくんが嬉しそうに返事をするので強引にねじ込まれた部分を噛み千切って口をつけてない所をガーくんにあげる。

 ガーくんは、はむ! と魚の切り身をくわえると踊り食いを始める。

「ガーくん、ちゃんと行儀よく食べないとダメだよ。 ほら、ここに座って」

「ハーイ!」

 そんなガーくんの踊り食いをみて、フェイトがガーくんに注意する。 そして自分の膝を叩いて座るように促す。 ガーくんはそれに素直に従う形でフェイトの膝に座り魚を食べる。

 そんなガーくんをみてアリサが一言つぶやいた。

「これ、物の怪の類じゃないの……?」

「物の怪がペットショップに売ってるわけないだろ」

「喋るアヒルもペットショップには売ってないわよ」

「新種のアヒルということだな」

「まぁ……アンタ達がそれでいいならいいけど」

 アリサが俺とフェイトをみながら、とても面倒そうな、それでいて胡散臭そうな目で言う。

「ガーくんいいなー。 フェイトママのおむねがあたってるよ」

「え?」

「へ?」

 膝の上にいたヴィヴィオの言葉でフェイトの膝にいるガーくんに目を向ける。

 そこにはフェイトの胸が頭の上に乗っているガーくんの姿があった。

「コレジャマ……、ガークンソッチイク」

 ガーくんはフェイトの巨乳に頭が何度か当たっているようで、それが嫌なのか俺の頭の上に跳んできた。

「「…………」」

 フェイトは顔を赤くしながら俯いて、俺は目から赤い涙を流しながら俯いた。

「ざっけんな……よ……! なんで俺じゃなくてアヒルなんだよ……! 望んでねえよ、そんなシチュ誰ものぞんでねえだろ……!」

 握りしめた拳の皮膚が裂け、血が滲むのが伝わってくる。 アヒル相手に怒りの矛先を向けるわけにはいかないので、上唇を噛みながらこの怒りが収まるのを待ち続ける。

 そんなとき、隣のフェイトが俺の肩をちょんちょんと突いてきた。 ぎこちない動作でなんとか振り向く。 表面上は笑顔であることを忘れずに。

 そこで見たフェイトは──とても可愛かった。

 顔を赤くしながら、あうあうと狼狽えながら何かを言おうとしていた。 思わず抱きしめたくなる。

「あ、あのね……? わ、私はアヒルに、む、胸を当てるほど……そ、その……アレじゃないからね? これは事故で、決して、その……アピールとかじゃなくて……」

「う、うん。 わ、わかってるから! フェイトはそんな子じゃないとわかってるから!」

「ほ、ほんと……? それじゃ、私のこと嫌いにならない?」

「なるわけない! なるわけないだろ! フェイトの胸大好きだよ!」

「……胸……だけなんだ……。 ぐすっ、俊は胸しかみてないんだ……」

「い、いやそうじゃなくて!?」

 俺の手をもったままフェイトが鼻をすすりだす。

『だれかリンディさん止めろ!? ひょっとこ殺されるぞ!? 目がマジでヤバイ!』

『ざけxfvtygぶhんp;:・j;l。k、hmjんgfdszxdfcjgvkhlb;んl;¥j:kjj・;l。、hmjんgfbxdzfcvごbpんmk:\/;l.,kjmhgfd007Acvgbhノkp@;lkjhgf!!!!!!!』

『くそっ!! 虚化しやがった!?』

『全員分のバインド引き千切ったぞ!?』

「フェイト……。 死ぬ前にいっておきたいことがある。 確かにフェイトは胸も魅力的だけで、それよりもその笑顔が一番俺は好きだよ。 なのはの笑顔も大好きだけで、それと同等くらいフェイトの笑顔が大好きなんだ。 PT事件のとき、俺がフェイトにいった言葉覚えてるか?」

「う、うん……。 『友達になろうなんて高望みはしない。 ただ一度だけ、俺にキミの笑顔を魅せてくれ』だったよね」

「あぁ、その通りだよ。 だから笑ってくれ。 フェイトの泣き顔も可愛いし、保護したくなるけどそれよりも笑ってくれ。 それだけで今日一日、俺は生きる希望ができるから」

 フェイトの両肩に手をおいてそう懇願する。

 ──キミの笑顔をまた明日も見るために、俺は今日を生きるから

 そういった俺に、フェイトはふんわりと笑ってくれた。 そして俺の顔に手をおいて、「しょうがないなぁ」 なんて言いながら顔を近づける。 体が金縛りにあったかのように動かない。 けど、それでもいいと思った。

 そして──

「、mヌhbygvtfcdrtfyヴ美のm:;lんbkvgcfdxztsxydtcヴゅgびほ:jjj・。l、kjyhdxdcfvgbhjんmk、l。:;xdctfrvygぶひんjもk、l。;・:xdcfvgぶhんjmk、l。;・:!!!!!!」

 俺は虚化したリンディさんに首根っこを掴まれた。



           ☆



「……すいません、シャマル先生。 治療なんてさせてしまって」

「いえ……それはいいんですけど……、よく生きて帰ってこれましたね」

 パラソルシートの下、俺は寝転がりながらシャマル先生の治療を受けていた。 俺もよく生きていたと思う。 今日ほど父さんに感謝したことはない。

 ここにいるのは俺とシャマル先生だけ、その他の皆はシートから出て楽しそうに水をかけあっていた。

「それにしてもリンディさん怖かったですね、俺もう死ぬかと思いました」

「リンディさんのほかにも呪法を唱えていた人もいましたけどね」

「なにそれ怖い」

 そんな人が俺の周りにいるのか、怖すぎて近づきたくないぞ。

 ゆっくりとシャマル先生のヒーリングが俺の体を癒してくれる。 はぁ……落ち着く。

 癒されながら、他の面々をみることに。

 なのはは嬢ちゃんとスバルに追い掛け回されてる。 二人とも変態の目をしていた。 いつも通りだ。

 フェイトはヴィヴィオとはやてとシグシグとアリサとすずかと遊んでいる。 眼福である。

 リンディさんと桃子さんは年がアレなのに、無謀にもハイレグを着ていた。 ババア無理すんな。

『俊ちゃ〜ん、ちょっとこっちこないー?』

 お二人とも美人でスタイルがいいので、俺が求婚を申し込んでしまいそうだ。

 ロヴィータと美由紀さんはエリオとキャロに泳ぎを教えているようだ。 みててほんわかする。

 スカさんとウーノさんはガーくんに何やら質問をしているようだ。 ガーくんが答えるたびに嬉しそうにしているスカさんの顔が気になってしまう。

 士郎さんや恭也さん、ザッフィーにおっさんはなにやらガチムチっぽいトークを繰り広げていた。 訓練がどうとか、むさ苦しいのでどこか行ってほしい。

 そんなこんなで皆をみていると、嬢ちゃんが俺に気付いたのかなのはを追い掛け回すのはやめてこちらに駆け寄ってきた。 来るな変態。

「ひょっとこさん、おじさんたちがビーチフラッグをやろうといってましたよ」

「え〜、マジでやんの? 誰が相手?」

「おじさんとお義父さんと御兄さんとザフィーラさんとひょっとこさんのメンバーでやろうとのことです」

 ん? いまこの娘、士郎さんのことお義父さんって呼ばなかった? なに、この娘の中ではどういった家庭が出来上がってるわけ?

 深追いしたら帰れそうになさそうなので追及はやめておこう。

 寝転がったまま答える。

「まぁ、べつにそれはいいけどさ。 いつやんの?」

「いまからです」

 そういった途端、シャマル先生が全力で魔力を注ぎ始めた。

 いったい俺の体はどれほど負傷していたんだ……。



           ☆



「第一回! ガチムチビーチフラッグ選手権!!」

 はやての失礼な声とともに後ろでみている面々が拍手と応援の声をこちらに向けてくる。

「さぁはじまりました、最初で最後のビーチフラッグ選手権! In海鳴!」

 俺の隣に並ぶのは、士郎さん、おっさん、恭也さん、ザッフィー。 それぞれがそれぞれ準備運動をしながら体をほぐしている。 今回は相手が相手なだけに全員本気なようだ。

「まぁ、尺もありませんのでとりあえず出場者を紹介していきましょう!」

 ……適当だな、はやてさん。

 はやてが士郎さんにスポットを当てながら喋る。

「まずは喫茶翠屋の店長、高町士郎さん! エースオブエース、高町なのはのお父さんにして上矢俊の師匠でもあるこのお方! その神速は、文字通り神の如き速さ! そのスピードをいかして見事フラッグを手に取ることができるのか!? それでは士郎さん、一言お願いします」

 マイクを差し出される士郎さん。

「桃子──惚れ直すなよ?」

 かっけえええええええええええええ!? この人、やっぱりかっけええええええええええええええ!!

 桃子さんの顔を赤くしながら、『もうっ! ……大好きですよ』とかやってるし! なにこの夫婦、うらやましすぎる!? 俺もこんな夫婦になりたい。

 はやてが『こんな夫婦になりたいな〜』とかいいながらおっさんのほうに移動する。 気持ちはわかるぞはやて。 憧れるよな、この夫婦。

「お次はミッドが誇る最強の局員! おじさん! その力と技でミッドの異常者どもを一網打尽! まことしやかに管理局最強ではと噂させているこのお方、今日はどんなチートを魅せてくれるのでしょうか! おじさん、一言どうぞ」

「局員として、ここは負けるわけにはいかんな」

 俺の予想、おっさんは手を抜くはずだ。 こいつが本気になったら流石に勝負そのものがダメになるしな。

 はやては『頑張ってください!』 そういって恭也さんのほうに行く。

「お次は高町恭也さん! 高町士郎指導の下、着々と力をつける海鳴の若きエース! 今日は弟弟子の上矢俊がいる手前、みっともない真似はできるはずがない! そう豪語した恭也さん! いまここに親子二代の神速を見ることができるのか!? では、恭也さん一言どうぞ」

「忍にいい土産話ができそうだ」

 この人、もう勝った気でいやがる……。 おいおい、それはいくらなんでも早計すぎですよ?

「お次は私の自慢の家族、ザフィーラ! ベルカの守護獣たるこの男、常に鉄壁の守りをみせていたこの男がついに攻めに転じる! 獣のように疾駆する体、一度標的を決めたら逃がすことはないその鋭い眼光! ザフィーラに目をつけられたフラッグが可哀相である! さぁいけザフィーラ! 八神家の意地をみせつけるんや!! あ、なにか一言ある?」

「いや、あの……主はやての期待に応えられるように頑張るだけであります」

 ザッフィー可哀相、もう期待に答えなきゃ! という重圧が視認できるほど膨れ上がってるぞ。

 そしていよいよ俺の出番。

「最後は人類を陥れるために神様が送り込んだ刺客、上矢俊! ミッド一のバカにしてミッド一の異常者! その割には無駄に高いスペックを有するこの男! そのフラッグをもって誰に告白しにいくのか! これも見所に一つであります! あ、俊。 もちろんわたしにくれるやろ?」

「へ? まぁフラッグくらいやるけどさ。 それよりも告白って──」

『俊―! 頑張ってねー!』

『パパー! がんばれー!』

「おーー! みててくれよー!」

 フェイトとヴィヴィオが手を振ってくれたので、俺も振り返す。 フェイトの隣にいるなのははむくれている。 なんであいつはむくれてるんだ?

 これで全員分の紹介も終わった。 さて、ここからが本番だな。

「勝ったらキスしてあげるで」

 去り際にはやてがそんなことをいってきた。 ……何が何でも勝とう。

 皆で後ろを振り向き(みんなの方を向いている状態だ)うつぶせに寝る。

 さぁ──本気を出すときがきたようだ

 全員が固唾を飲んで見守る中、はやてが笛に口をつける。

 いつの間にか沢山の人が俺たちの行動をみていた。 それもそうか、こんなことしてるしな。 怒られないだけマシである。

「よーーい! どん!」

 八神はやての口から甲高い音が鳴った瞬間、四人は一斉に動きだした。

 まず最初に動いたのは高町士郎だ。 自慢の神速を遺憾なく発揮し、三人よりも一歩前に出た。

 そこに恭也が足をかけた。 恭也の足を刈り取るような動きに、士郎は思わず小さくジャンプする。 そこに動きを合わせるように俊が士郎の背中を踏み台にして飛び越える。

 俊はそのままの勢いでフラッグを手に取ろうとする──が、横からザフィーラの飛び蹴りが腹に命中した。 脇腹を抉りながら蹴られたザフィーラの足は最後に軽く捻りをくわえることによって俊への痛みを倍増させる。 肺の空気を吐き出しながら勢いをそのまま横に一気に移動する俊。 そんな俊の後ろ、その男は立っていた。

 背中にぞくりと悪寒が走った俊は本能に身を任せ前方に大きくジャンプする。 チッと音をたてて俊の後ろ髪がほんの少しだけ燃える。 髪を燃やしたのはミッド最強の局員である。

 この男、元からフラッグに便乗して俊を痛めつけるのが目的である。

 おっさんとザフィーラに挟まれる形となった俊。 流石に冷や汗を軽く流す。

 そうして三人が対峙している隙に、恭也と戦っていた士郎が一瞬のすきをついてフラッグに手を伸ばす。 それをみていた俊がザフィーラにアイコンタクトを取ると、ザフィーラは左足を軸に後ろを見ずに右足を蹴り込んだ。 その蹴り込んだ場所には丁度士郎の手。

 パシンと音をたてて弾かれた手を見て、思わず士郎はザフィーラを見る。

『舐めないでもらおうか』

 そういうザフィーラに、士郎は唇を軽く舐めて答える。

『上等だ』

 士郎は標的をザフィーラにかえ、一気に駆け出す。 身構えるザフィーラの後ろに神速で回り込み側頭部に手刀を叩きこむ。 容赦情けのない一撃がザフィーラを襲う。 普通ならばこれで倒れる。 否、倒れなければおかしい──のだが、士郎は相手を見縊っていた。

 相手は守護騎士であるザフィーラ。 そこらの一般人とは格が違うのだ。 手刀を叩きこまれてもなお、その眼光は鈍く、煌めきながら士郎を捕らえる。

 その眼光に士郎が一瞬怯み、距離を取る。

 その背後──恭也が握りこぶしをためながら待っていた。

 士郎が気付いたときにはもう、全てが遅く──恭也の拳が士郎の背中を襲う。

 背中を強打され、大きく距離をとった士郎。

 その士郎をみて、恭也はほくそ笑みながらフラッグを手に取ろうとする。

 ざわり……! 恭也の体が警鐘を上げる。

『蹴り砕く』

 その声が聞こえた瞬間──恭也の肩が何かを襲う。 トラックに撥ねられたような衝撃が走り、針糸を通すほどの精密さで骨と骨の間に親指がめり込む。

 そしてそのまま、恭也の頭を両足で挟み捻じり落とす。

『甘いぜ恭也さん。 こればっかりは負けられないんでね』

 そう言葉を残し、颯爽とフラッグを手に取る俊。 その体はぼろぼろで先程までおっさんと壮絶なバトルを繰り広げられたことを物語っている。

 俊はゆっくりとフラッグを手に取り、拳を天に上げ勝利を宣言──しよとした矢先におっさんの蹴りが顔面に命中した。

 おっさんはそのままマウントをとって俊をタコ殴りにする。

 それによって俊は思わずフラッグを遠くに投げる。 そのフラッグの行方は──ザフィーラの頭の上に乗ることとなった。

 ザフィーラはここぞとばかりに宣言する。 『俺の勝ちだ』 と。 しかしそれでも勝負は終わらなかった。

 ザフィーラの宣言を聞いてもなお、士郎はザフィーラの顔に砂をかけ背負い投げをする。

 それによって砂浜に打ち付けられるザフィーラ。

 丁度その頃、俊のマウントを取っていたおっさんに唾を吐きおっさんが防いだ瞬間を見逃さず腕を捻りあげ俊は脱出した。

 五芒星の形で全員がゆらりと立ち上がる。

 もはや全員──フラッグになど興味はなかった。

 あるのは──目の前の者たちを葬ることだけ。

 それぞれ首を回し、肩を鳴らし、指をしならせ、屈伸する。

 そして言い切る

『上等だ。 全員まとめてかかってこいや』

 ビーチフラッグはガーくんの手によって回収されていた。



           ☆



 他のメンバーがそれぞれを応援しているのを横目にアリサが呟く。

「あの……私の知ってるビーチフラッグと違うんだけど……」

「まあ、こうなることはわかってたんやけどな。 ほら、新人達に魔法なしの極限の戦闘がどれほどのものか見せようとおもてな」

「……はやては昔から策士よね」

 アリサの呆れた声にはやては可愛らしく舌を出して答える。

「なんのことかわかんな〜い」

 俊たちの極限バトルは2時間にもわたり、最初から最後までギャラリーを飽きさせることなく終焉を迎えた。

 ヴィヴィオの放った

『ヴィヴィオおうちかえりたい』

 の一言によって。




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