78.風邪.
ヴィヴィオと一緒に寝ようと決めたこの日、俺はヴィヴィオを膝に乗せながら今日の夕食を食べていた。 夕食のメニューは中華。 五目チャーハンにカニあんかけチャーハン、天津飯に中華おかゆ、鶏肉細切りラーメンに温泉味噌ラーメン、ソース焼きそばに葱豚ラーメン、餃子に春巻き、しゅうまいに小龍包、エビマヨ、エビチリ、イカの塩炒め、鳥のからあげ(チリ風味やマヨ風味、そして普通の)、八宝菜にチンジャオロース、レバニラ炒め、酢豚、麻婆豆腐、わかめスープである。
大きなテーブルには各種飲み物と俺と桃子さんとリンディさんで作った料理が所狭しと並んでいた。
そんな中、俺はエビチリを一つ箸でつまんでヴィヴィオの口に運ぶ。
「はい、ヴィヴィオ。 あーん」
「あーん! もぐもぐ」
「おいしいか?」
「うん! おいしい!」
膝に乗せたヴィヴィオが俺の顔を見上げながら笑顔でそう言ってくる。 はぁ……幸せ。
『でれでれだ』
『でれでれってレベルじゃねえだろ、あれ。 どこのバカップルだよ』
『ヴィータさんもロリですし、ひょっとこさんにやってもらえるのでは?』
『やめろ、せっかくの料理がまずくなる』
『ロリは否定しないんですね』
『体は子ども、精神面は大人だ』
近くの席でロヴィータと嬢ちゃんの話し声が聞こえてくる。 ええい、うっとおしい。 愛しのヴィヴィオの声が聞こえぬではないか。
「次はどれが食べたい? パパがとってあげるよー」
「えーっとね……。 それじゃあれがたべたい!」
ヴィヴィオが指さしたのは八宝菜。 俺は八宝菜を小皿によそいヴィヴィオの口に運ぶ。
「あーん」
「あーん! もぐもぐ」
俺の口に合わせてヴィヴィオも口を開くので、そこにこぼさないようにいれていく。 勿論、熱を冷ますのも忘れない。
もぐもぐと笑顔で咀嚼するヴィヴィオ。 もう可愛すぎる。
ごっくん と呑み込んだヴィヴィオは、
「パパはたべないの?」
そう聞いてくる。 正直、ヴィヴィオの食べてる姿を見られたらそれだけでお腹いっぱいなのだが……そういうわけにもいかないよな。
「そうだね。 それじゃパパも食べようかな」
「それじゃヴィヴィオがたべさせてあげるね!」
スープをとった俺に、ヴィヴィオはそういってスプーンを大きく掲げて見せた。 そしてそのままスプーンでスープをすくい俺の口に持っていく。
「あーん!」
「あーん!」
ぼたぼたぼたぼた!
『うわっ……スープがひょっとこさんの股間に……』
『あいつ一生懸命耐えてるぞ。 内股になりながら耐えてるぞ』
股間が……熱い……!
ヴィヴィオのスプーンの中身は俺の口の一歩手前で全て零れ落ち、うすいじんべえの上にぼたぼたと垂れていく。 熱いスープはそのまま俺の股間に食らいつき、その業火をもって亀頭を攻撃していく。
じゅくじゅくと、熱く
とろみのついたスープがパンツに染み込んでいき
──たまごが踊る
「パパおいしい? パパおいしい? ヴィヴィオのおりょうりおいしい?」
ヴィヴィオが顔を近づけて俺に聞いてくる。 首を傾げて可愛く聞いてくる。
俺はそれに抜群の笑顔で答える。
「最高においしいよ! ありがとヴィヴィオ! けどやっぱりパパは一人で食べる──」
「ほんとっ!? それじゃいっぱいたべさせてあげるね!」
ヴィヴィオが俺の言葉を最後まで聞かずにスープをぶんどる。 こういうところがなのはに似てるよね。 ママの影響を受けているようで安心したよ。 いや、安心できないけど。
ぶんどったヴィヴィオはそのまま俺の膝の上で器用に立ち、俺の方向に方向転換してスープを口に運ぶ。
「きゃっ!?」
ばしゃぁ!!
『あぁっ!? ヴィヴィオちゃんが転んでスープがひょっとこさんの股間に!?』
『大丈夫なのか? あいつが着てるじんべえかなり薄い仕様だったと思うけど……』
びくんびくんびくんびくんびくんびくんびくんびくんびくんびくんっ!!
『高速ピストンで熱を冷めしているだと……!?』
『あいつ周り女性だらけなのに必死だな。 そこまでして大切なのか。 相手いないのに』
ロヴィータ……お前いつか絶対に犯す……!
股間が熱い、というか痛い。 たまごがディスコを踊り狂ってる。 パラパラでフィーバーしてる。
「ご、ごめんなさいパパ……。 ヴィヴィオ……パパにたべさせてあげたくて……ぐすっ」
「い、いや大丈夫だから! パパくらいになると局部は鍛えてるから! だ、だから泣くな? な?」
「うっ……ひっく……、ほんと? ヴィヴィオのことおこらない?」
「ああ! 怒らない! 絶対怒らないから!」
「わーい! パパだいすきー!」
スープをこぼしたことで落ち込み、俺が苦しんでいることことで心配になり、怒られるかもしれないということで若干泣きそうだったヴィヴィオ。 そんなヴィヴィオの頭を撫でながら優しい笑顔──というなの引き攣った笑顔でヴィヴィオを慰める、というか許す。 ヴィヴィオはそんな俺の言葉を受けて喜び抱きついてきた。
ぎゅむっ!
「はぅっ!?」
『あー……ヴィヴィオちゃん思いっきり踏んでる……』
『というかマナー的に問題あるだろ。 こういったことは小さいうちに教えておかないとだな──』
ヴィヴィオの小さい足が俺のチンコを思いっきり踏んづける。 ヴィヴィオの将来はSM女王様で決定だな。 きっとNo.1に輝くぜ。
しかしここで不能になるわけにはいかない。 不能になるわけにはいかないのだ。
ヴィヴィオに何かを言おうとした所で──横からなのはがヴィヴィオを抱きかかえ自分のほうにもっていった。
「いい加減にしなさい、ヴィヴィオ。 パパ困ってるでしょ? それに膝の上に立つなんて行儀悪いよ」
「そうだよヴィヴィオ。 俊はとりあえずお風呂場でシャワーでも浴びてきたら?」
「うん……そうさせてもらうよ……。 あのさ……やけどってオロナインつければ治るかな……?」
「うーん……そこは専門外だからわからない……かな」
俺の言葉にフェイトは困った顔でそういった。 うん、そうだよね。 チンコの火傷とか普通にないもんね。
俺はべたべたのじんべえのまま、風呂場へと行った。 軽くシャワー浴びてきてまたご飯を食べよう。 5分もあれば十分だな。
☆
俊がその場を後にしたのをみて、なのはは自分が抱きかかえているヴィヴィオをみる。
「いい、ヴィヴィオ? 激甘の俊くんだからヴィヴィオのこと許したけど、普通あんなことされたら怒るよ?」
「ママも……ヴィヴィオのことおこっちゃうの……?」
「へ? い、いや……べつに怒るっていうか……、こういうことしちゃダメだよってことで」
「なんでえ……?」
「な、なんでって……。 そりゃあんなことされたら怒るでしょ?」
「パパはおこらなかったよー?」
「それは俊くんがおかしいの。 パパがあれだとほんと苦労するよ……。 ねぇフェイトちゃん?」
「だね。 ヴィヴィオ? スープは熱いから、あんなことされたら誰だって嫌なんだよ? 俊もこれがティア辺りだったら躊躇いなくぶっ飛ばしてると思うよ?」
『ヴィータさん。 私ってアイドル枠ですよね? いま平然と私がぶっ飛ばされることになってるんですが』
『安心しろティア。 お前は間違いなくネタキャラだから』
『え』
「パパはだいじょうぶだっていったよ?」
ヴィヴィオは首を傾げながらわたしのほうをみてそういった。
ぐぬぬ……! あのバカが甘やかすから……! ヴィヴィオの基準が俊くん基準になってる……!
ここはママであるわたしとフェイトちゃんがしっかりいってあげないと!
フェイトちゃんに目配せをする。 フェイトちゃんはこくりと小さく頷いた。 それをみて、わたしはヴィヴィオに言う。
「いい? ヴィヴィオ。 パパはヴィヴィオが大好きだからなんでもヴィヴィオの言うこと聞いちゃうし甘やかすけど、わたしもフェイトちゃんもこれからヴィヴィオには厳しくいくからね」
「そうだね。 ここらでちょっとヴィヴィオの教育を見直したほうがいいかも……」
「あうっ……。 なのはママとフェイトママはヴィヴィオのこときらいなの……?」
「「うぐッ!?」」
下から上目使いでわたしたちのことを見てくるヴィヴィオ。 指と指を絡ませながら見つめる視線は微かではあるものの涙をためさせていて──
「こ、ここで負けちゃダメだよフェイトちゃん!? わたし達はママなんだから! 甘やかすパパにかわって娘を叱らないと!」
「そ、そうだよねっ! だ、ダメだぞー!」
「ひっく……なのはママ……フェイトママ……。 ヴィヴィオ……わるいこ?」
ヴィヴィオの視線に耐えきれずに、わたしはフェイトちゃんのほうを見る。 フェイトちゃんも同じだったのか、私と丁度目を合わせる形になった。
「(なのは……、やっぱりヴィヴィオを叱るのは……)」
「(だ、ダメだよフェイトちゃん……! ここでヴィヴィオを甘やかしたら、ヴィヴィオは将来我儘な小悪魔になっちゃうよ!)」
「(で、でも……ヴィヴィオも反省してるし……。 あんまりすると泣いちゃうかもしれないし……)」
「(と。ときには泣かせることも必要! ……だと思う……けど)」
チラリとヴィヴィオのほうをみる。 みるとヴィヴィオは既に半べそ状態で、わたしの膝の上でガーくんを呼んでいる最中だった。
「……今回だけだよ? 今度からは、こういったことはしちゃダメだからね?」
わたしがそういうと、弾かれたようにヴィヴィオの顔が笑顔に変わる。
「わーい! なのはママ、フェイトママだいすきー!」
「「敵わないなぁ……」」
ヴィヴィオを抱きしめながらフェイトちゃんと二人、肩をすくめる。
そうしていると、遠くのほうでお母さんがクスクスと笑っている声が聞こえてきた。
「なのはも俊ちゃんのこと悪くいえないわね。 電話では『俊くんが甘いからいけないの!』 って散々言ってたのに。 なのはとフェイトちゃんもヴィヴィオちゃんにデレデレでとっても甘いわよ」
「うっ……!? け、けど俊くんほどじゃないよ!」
「ふふっ。 でも、娘がパパのことを大好きなのはいいことよ。 世の中にはパパのこと嫌いな娘が多いし」
『がふっ!!』
『ど、どうしたんですか!? いきなり吐血なんかして!?』
『うぅ……! どうして俺を置いて旅行なんかに行ってしまったんだ……! 娘はまだ高校生なんですよ! 小さいときから可愛くて、将来の夢は俺のお嫁さんだったんです……。 なのに……! なのに……!』
「俊ちゃんもこういうことにならなければいいけどねー」
おじさんの慟哭を聞いて、お母さんは溜息を吐く。
するとお母さんの隣にいたフェイトちゃんのお義母さんのリンディさんがすまし顔で言う。
「べつに私は彼がどういうことになろうといいですけどね」
「あら、リンディさんは俊ちゃんに対していい印象を抱いていないのですか?」
「いい印象よりも、私はあの子が恐ろしいわ。 絶対そばにいるとストレスで過労死確定よ」
「ふふっ、けどそういったところが俊ちゃんの可愛いところだと思いませんか? なんというか……世話を焼きたくなるというか、あの子のそばにいなきゃ! みたいな感じで。 ねぇ? なのは?」
「な、なんでわたしに振ってくるの!?」
いきなりの振りにたじろぐ。
「あら? なのはもそんな感じじゃないのかしら? ほらよく電話でも『俊くんには私がいなきゃ──』」
「だ、ダメーーーー!!?」
すかさずお母さんの口を止めるわたし。 この人なんなの!? マジでこの人なんなの!?
「そ、そんなこと一言もいってないでしょ!? 捏造にもほどがあるよ!」
「あら? そうだったっけ? あ、そうそう。 確か電話では『えへへ……。 昨日の夜、俊くんの寝顔──』」
「ち、違うっていってるでしょ!? そんなこと一言もいってません! わたしがそんなこと言うわけないでしょっ!?」
「素直じゃないわね〜。 そんなことだと俊ちゃんどっか行っちゃうわよ?」
「そんなこと……ないよ。 俊くんがわたし以外の所に行くなんてありえないよ」
「あら? どうして?」
お母さんは心底不思議そうにそう聞いてくる。
「だって……その……。俊くんなのはのこと大好きだし……。 ずっと一緒にいようって約束したし……」
『ほ〜』
「べ、べつに俊くんのことなんか本当はどうでもいいんだけどねっ!? た、ただ……やっぱり約束は守らないとダメだと思うし……、ほ、ほんと好きとかそういうことはありえないんだけどっ! ま、まぁ……仕方ないから一緒にいてあげようかなー、みたいな……」
顔を赤くしながら、視線を彷徨わせながら指を絡めるなのは。
『ヴィータさん。 うちの上司が可愛すぎてヤバイです』
『気持ちはわからないでもない。 アイツが骨抜きになるのもわかる』
『私が襲いたくなるのもわかりますよね』
『それはわからん』
お母さんがわたしのことをギュっと抱きしめてくる。
「はぁ〜……。 ほんと可愛いわ、うちのなのはは……」
「あ、あのお母さん? ちょっとキツイ……」
強く抱きしめられたため、息ができずに苦しくなる。
「リンディさん、うちの娘可愛いでしょ?」
「いやいや、私のフェイトのほうが可愛いですよ。 けどまぁ、あのバカはうちには必要ないのでいらないですが」
「えぇっ!? そんな! ひどいよお義母さん!?」
「……フェイト……?」
フェイトちゃんのいきなりの大声にリンデイさんが固まる。
「だ、ダメよっ! あんなボンクラと付き合うなんてこと、私は絶対に許さないわ!」
「つ、付き合うなんていってないよ!? で、でも……告白は……されたかな」
『えぇっ!?』
その場にいる全員が驚く。 勿論、私も絶句する。
『おいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおい、あのヘタレが告白……!? 冗談だろ……!』
「ほ、ほんとなのフェイトちゃんっ!?」
「う、うん……。 といっても、なのはと同じような内容で『ずっとそばにいてほしい』ってことだったけど……」
「ほ、ほらみなさい! 彼はそうやってすぐ告白するナンパ野郎よ! 認めないわ! まず絶対条件が、高収入で恰好よくて、家事ができて、家族を守れるほど強くて、子どもが大好きで、フェイトのことを愛していて、私の言う事も素直に聞く、しっかりした男じゃないと認めないわ!」
うわぁー……リンディさん。 それってかなりスペック高いですよ。 高すぎですよ。
ふと後ろのほうから、愛しの娘の声が聞こえてきた。
『スバルンにパパのじまんしてあげるー! えっとねー、パパはねかっこうよくて、おりょうりがじょうずで、つよくて、ヴィヴィオのことだいすきで、なのはママとフェイトママのことがだいすきで、リンディメッシュさんにもやさしくてわらいながらいうこときいて、かけいぼ? もつけてるんだよー。 すごいでしょー!』
いた。 高収入というか無収入だけど、それ以外は当てはまるスペックの持ち主が身近にいた。
「えーっと……お義母さん?」
「冷めないうちにご飯食べましょうか」
「えっ!? いまの話なかったことにするのっ!?」
ヴィヴィオの話を聞いたリンディさんは何事もなかったかのようにご飯を食べ始める。
「がんばらないとね、なのは」
「だ、だから好きじゃないって……」
耳元でそう言ってくるお母さんに離れながらそう返す。
「それじゃ、間を取ってはやてちゃんというのはどうでしょうか?」
「やめておけシャマル。 引退したグレアム提督に殺されるぞ、アイツが」
シャマルさんの一言に、シグナムさんがそう返す。
確かに……グレアム提督に殺されそう。
「え? なんで殺されるんですか?」
「あぁ、スバルは知らないのか。 アイツがグレアム提督との初対面のときどんなことしたのか」
「どんなことしたんですか?」
「アイツな……机の引き出しからエロ本発見して、それをぶちまけやがったんだ……」
「ほんとロクでもないことしかしませんねあの人!?」
「ついたあだ名がエロ本提督。 どんな想いだったんだろうな……、引退のとき」
[速報] エロ本提督が引退した [引退後は優雅なエロ本ライフ]
「グレアム提督は、はやてのことを可愛がるが、アイツの話題になると不機嫌になるからな。 まぁ、致し方ない。 誰だって自分の机からエロ本発見されたあげく、ぶちまけられたら好意的な印象をもつことはないだろうな」
シグナムさんはうんうんと頷きながらからあげを食べる。
確かに……あのときは凄かったかな……。 わたしもフェイトちゃんもかなり恥ずかしかったし。
遠くのほうでガーくんにご飯をあげていたアリサちゃんが大きなため息を吐きながらこちらをみる。
「あのさ、ずっと思ってるんだけど……アイツって恋愛対象に入らなくない? 基本バカよ。 それとも、私の知らないところでなにかカッコイイことでもしてるの?」
呆れたような視線がわたしとフェイトちゃんを見つめる。
「だ、だから恋愛対象じゃないって……」
「ああ、愛玩動物みたいな感じ?」
「あ、それ近いかも」
『可愛くない愛玩動物ですね。 絶対私のほうが可愛いですよ』
『お前の場合、哀願動物だろ』
『確かに悲哀に満ちるほどなのはさんとイチャイチャしたいと願ってはいますが』
「ふーん……。 まぁ、そんなに好き──もとい愛玩動物とそばにいたいなら抱くくらいのことしたら?」
「「だ、抱くっ!?」」
そ、そんなことできるわけないじゃんっ!? だ、抱くって……! そんなこと……、あ、でも手錠つけてご飯食べさせたり、弄ったりするのはちょっといいかも……。 可愛い声で鳴いてくれそうだし……。 ──って、何考えてんだわたしっ!?
「む、無理だってそんなこと!?」
「? なんで? 後ろから抱きつくとかすれば、アイツならコロっと落ちると思うわよ?」
「「……え?」」
だ、抱くって……そういうこと?
抱きつくほうの抱く?
そうなってくると、今度は違う勘違いをしたわたし達のほうが恥ずかしい……。 顔から火が出そうになる。
俯くわたしとフェイトちゃん。 そんなわたし達をみてアリサちゃんは、
「アイツは幸せ者ねー」
そう呟いた。
「けど、抱きつくってのは有効かもね」
「すずかちゃん?」
「ほら、ヴィヴィオちゃんと俊くんがさっきやってたじゃん? あんな感じのをやればいいんじゃない?」
さっきのっていうと……あの真正面から膝に乗って向かい合うことだよね……。 けどそれって──
「「な、なんか恋人みたい……」」
でも──ちょっといいかも。 頑張ってみよう……かな?
チラリとフェイトちゃんをみる。
「……そのまま押し倒して……いや、あっちのほうが……」
フェイトちゃんが怖い。 なんか怖い。
──と、そこでふとヴィヴィオとご飯を食べていたスバルが唐突に気付き質問した。
「そういえば──はやてさんどこにいるんですか?」
『あっ』
☆
その頃、話題に出た八神はやては──風呂場に行く俊を押し倒していた。
「はぁ……はぁ……、俊……体熱いんよ……」
「いや俺の股間もいま熱いからっ!? まじゼニガメがやけど負ってるから!? 早くポケセン行かないとゼニガメ死んじゃうって! このゼニガメ元気のかたまりとか効果ないから!」
俊は俊で早く風呂場でシャワーを浴びたいのか、乗っかってるはやての肩を掴んでどかそうとする。 まず股間にぶらさがってるものが第一である。
「なぁ……なんでこんな熱いんやろ……。 頭がな? ぽーっとするねん……」
「俺の股間もぽーっとしてきたから! 中々に熱いから!」
はやては俊の言葉など聞かずに、俊に抱きつく。 その速度はとてもゆっくりとしていた。
「うおっ!? お前たまごが──」
抱きついてきたはやてをタマゴの魔の手から救おうと離れさせる──ときになってようやく俊は気付いた。
はやての尋常じゃない熱さを。
「はやて。 ちょっとおでこをくっつけるぞ?」
俊ははやてを自分の膝のうえに座らせて、髪を掻きあげながら自分の額とくっつける。
そして数秒して、はやてをお姫様だっこする。
「体が熱い? 頭がぽーっとする? そりゃ当たり前だ。 お前──完璧に風邪引いてるぞ。 39度くらいかな。 まってろ、お前を部屋に運んだら急いで氷まくらと熱さまシートを持ってくるから」
はやてに声をかけながら、一歩踏み出そうとしたところで──はやてを探しに来た面々に気付く。
「あっ、丁度いいところにきた。 シグナム、ちょっとはやてを運んでくれ。 ヴィータは氷まくらの用意を頼む。 なのはは桃子さん達にこのこと伝えてくれ。 フェイトは風邪薬を頼むよ。 俺も着替えたらすぐ部屋に行くから」
そう全員に指示をだす俊。 そんな俊の抱かれているはやてをみて、シグナムとヴィータは頷き、なのはとフェイトも遅れて頷いた。
四日目の夜──八神はやては風邪をひいた。