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三話



 わたしがまだ小さかった頃、あの村には沢山の子どもが暮らしていた。土地神に恵まれていたのか、村は作物で苦労することはなく、村にいついていた力のない妖怪さん達と互いの線引きを決めて、毎日平和に過ごしていた。

 それはわたしたち子どもも同様で、些細なケンカや諍いをしながらも基本的には皆楽しくを念頭に、何一つ不自由な思いをすることなく毎日を過ごしていた。

 平和な平和なわたしの村。その村の中で、わたしは一人の男の子に恋をしていた。その男の子は村の中でリーダーと呼ばれており、いつもグループの中心で楽しそうに遊んでいた。その頃のわたしはとても引っ込み思案で病弱で、いつも木陰で男の子ばかりを見ていた。男と一緒に遊んでるグループがとても羨ましくてしかたがなかった。自分もあの輪の中に入りたいと思いながらも、自分の体と相談してため息を吐く日々を送った。

 毎日毎日、男の子を見続ける日々。

 幾日も幾日も、男の子を見続けてたある日──男の子はわたしに声をかけてきた。

 一緒に遊ぼう──と。

 病弱なわたしの手を強引に取ってくれたあの日のことは忘れない。

 誰よりも強くて、誰よりも優しい。そんなあなたがわたしは大好きだった。

 ううん、いまでも大好きです。

 幾日の歳月を越えて、ようやく会えた彼はとても弱弱しくかつての輝きを失っていた。

 それでもいい、それでもわたしにとっては些細なことだから。

 あなたに会えたそれだけで──わたしは幸せだから。

 明君を抱きしめながら、ぐずる子どもをあやすように背中をたたく。

 明君とあの村を奪った元凶と噂されていた少女を真正面に見据えながら。

          ☆

「少しは落ち着いた、明君?」

 僕の目の前に座る姫条さんは微笑みながらそう聞いてくる。場所はこの県の中心駅前にあるファーストフード店。僕たちの県はとても変わっている。県を一つの円に例えてみるとわかりやすいと思う。円の中心にいけばいくほど都心並に栄えており、進学校や近代的な建物がばんばん立っている第二の首都と呼ばれるほどだ。そしてその円の中心から離れれば離れるほど簡素で質素。ありたいていにいえば田舎になっていくのである。僕としゅりはその外の外に前は住んでいた。

 いまは丁度円心と外の半々の場所に住んでいる。ちなみに僕と佳奈、そして姫条さんが通っている高校も僕の家とたいして変わらない場所に立っている。

 だからなんだろう、学校は円心に負けないをモットーに日々教育に力を入れている。円心の学校だけが進学校と呼ばせないらしい。

 僕は学校からこの場所にどうやって来たのか全く覚えていない。気が付いたら姫条さんに手を引かれ、この店で昼食をとっていた。

「ぽぽぽぽ……」

 僕の膝の上に座りながら、しゅりはいまにも彼女に飛びかかりそうな雰囲気を醸し出す。しゅりとご飯の約束をしてたから、こんな所に連れてこられて怒っているんだろうな。約束したのは僕だし、約束破ったのも僕なんだから彼女は関係ないと思うけど。

「しゅり、ごめんね。 約束破っちゃって」

「ぽぽぽぽ、しゅりあきらはゆるす。でもあきらにぎゅーってしたこの女はゆるさない」

「でもあれはしょうがなかったんだって。あのままなら僕はずっとあそこで震えているだけだったし、外野から暴行すれすれの行為をされたかもしれないしね」

「あきらはしゅりのもの。しゅりいがいがあきらをいじめたら殺す」

 むむむと険しい顔で姫条さんを睨むしゅり。姫条さんには見えないんだから睨んだって無駄なのに。

「って、ごめん、姫条さん。さっきから独り言ばっかりいって。僕っておかしい人だよね」

 しゅりに向けていた視線を姫条さんに向けると、姫条さんは黙ったまま首を横にふり、まるで愛玩するように僕のほうを見つめていた。その表情に僕は思わず心臓が高鳴る。

「ふふ、仲がいいんですね。しゅりちゃんと明君」

 そう言って、彼女は笑った。僕としゅりを交互に見ながら。

 いま──彼女は何をした?

「…………え?」

 我が目を疑った。なんで姫条さんはしゅりが見えるんだ?だってしゅりは魅入られた者にしか姿が見えないはずだ。

「本当にしゅりがみえるの……?」

「はい!ばっちりです!」

 僕は頭の奥底に金槌で叩かれたかのような鈍痛が襲ってくる。いったいこれはどういうことなんだ?なんで彼女がしゅりのこと見えるんだ?

 予想していなかった展開に僕はこめかみを軽く押す。あぁもう、さっきのことといい姫条さんのことといい僕の脳はとっくにキャパを越えている。

 頭を軽く振り意識を整える僕の袖を、しゅりがくいくいと引っ張る。

「あきら、しゅりがみえる存在はあきらもしってるでしょ?」

「知ってるのは知ってるけど……。でもそれって妖怪……物の怪の類だよね?」

「そう、それがこの女のしょうたいだよ」

「いやいや違いますからねっ!? わたしれっきとした人間ですから!」

 第三者から見れば当たり前な宣言を椅子を倒しながら大声で言い放った姫条さん。数秒間そのままの状態で固まった後、しゅりの声と姿が他の誰にも分からないことに気づいたのか、顔を真っ赤にして周囲に

「お食事中すみませんでした……」

 と、しゅんと頭を下げながら倒した椅子を元に戻す。席に座りながら姫条さんが僕に話す。

「あのですね明君。わたしはれっきとした人間ですし、妖怪じゃありません。わたしがしゅりちゃんを視ることができるのは……なんででしょうか? それが当たり前な感覚だったのでいまさら理由を求めるのは難しいかもしれません」

 自分でもなんで視えるのか分からないのか、顎に手を当ててうんうんと唸りながら考える。ちょっと可愛い。

「あきら、しゅりこれたべてみたい!」

「ん? ハンバーガー?」

「あきらたべさせて!」

「はい、あーん」

 その間、膝の上に座るしゅりにハンバーガーを食べさせる。包み紙を丁寧に外し、ピクルスをあらかじめ取っておき両手を伸ばしてせがむしゅりの口元にもっていく。はむはむとおいしそうに食べるしゅり。しゅりがハンバーガーを食べるなんてよっぽどお腹すいてたんだな。

 前方から視線を感じ、そちらに顔を動かす。

「じー……。明君ってロリコンさんなんですか?」

「え?なんで?」

「いや、だって先程からその女の子にやたら優しいですし。傍からみたら五歳の小さい女の子を愛でる危ない人ですよ?」

「うーん。といってもしゅりは他の人には見えないしなー」

「まぁそうなんですけど……一人占めされてるみたいで……」

「一人占めって言っても、僕に好意を持ってくれる人なんてしゅりくらいだしなぁ」

「片桐さんは!? 片桐さんはどうなんですか!?」

 身を乗り出して僕に問いかけてくる姫条さん。その距離わずか10cm、少し僕が顔を近づければキスできる距離だ。……い、いかん!抑えるんだ僕!いくら姫条さんが可愛いからってそれはダメだろ!

「明君、どうなんですか!?」

「えっと……どういうこと?」

「で、ですから片桐さんが明君のことを……その……好きかどうかという」

 佳奈が僕のことを好き?

「ははっ、あっちが僕のことを好いてくれるならそれは両想いなんだけどね。でもまぁ──それはないんじゃないかな。僕は一度佳奈にフラれてるから」

「へ? どういうことですか?」

 僕はチキンナゲットをソースにつけて食べる。うん、やっぱりジャンクフードはまずい。 早く母さんの手料理が食べたい。

「あきらつぎこれ!」

 ポテトを指差すしゅりの命令に従って口元に運ぶ。しゅりは小さな口をせいいっぱい開けてもぐもぐと口にいれる。

 姫条さんは僕のことをじっと見つめる。あぁ……表情でわかる。さっさと話せと。

 頭を掻きつつ僕は答える。うぅ……恥ずかしいなぁ。

「これ絶対に秘密にしてね。本当に恥ずかしいんだ。佳奈と出会ったのは中学一年生のとき、丁度同じクラスになってさ。同じ保健委員で、クラスの中でハブられ気味だった僕にいつも優しく接してくれたんだ。佳奈といると毎日が楽しくて、それで僕は佳奈のことが好きになって進級する中学二年生の春に告白。まぁクラス替えで別々のクラスになっちゃったからね、離ればなれになるのが怖かったんだ。 折角の縁が切れそうな気がして。佳奈は優しかったら言葉にはしなかったけど──『ずっと友達でいようね』って答えてさ。あの時はどうやって家に帰ったのか分からなかったなぁ」

 懐かしい中学時代のほろ苦い思い出。ブラックコーヒーの味を覚えたのもその時だった。あの時はそのまま佳奈との関係は終わると思っていたけど、あの事件があったおかげでいまも佳奈とは付き合いがあるんだよなぁ。皮肉なものだ。あの事件のせいで僕は沢山のものを失った。でも唯一無二の友達を作ることができた。人生何があるかわからないものだ。

「まぁそんなわけで僕は佳奈のことが今でも好きだけど、佳奈は僕のことを友達としか思ってないんじゃないかな」

 そういってこの話を終わらせようとする僕。実際に終わらせたい。なんでこんな衆人観衆が昼食を取っている中で自身のフラれ話を話さなくていけないんだ。

 ちなみに僕がいまでも佳奈のことを好きだというのは本当の話。恥ずかしいから本人の前では決していえないけど。断言しよう。僕はこの世界に存在する人間を誰か一人愛せと命令されたら真っ先に佳奈を選ぶほど大好きだ。

 ……これほんとに終わらせよう。なんか自分が悶死しそうになってきた。

 だというのに──

「本当ですか?なんだか怪しいですねぇ……」

 そういって姫条さんは何か考え込んだ。うっ……なんかここらへんは佳奈と接してるみたいだ。佳奈もたまにこうやって僕の話を聞いて考えこむんだよね。そうされると何か悪いことをしたんじゃないかって怖くなってくるのは僕だけだろうか?

「まぁいいでしょう。わたしとしてはチャンスが増えますし」

「心配しなくてもあきらはしゅりのものだから、チャンスなんてうまれないよ」

「ちびっこは黙っててください」

「あきらー……ぐすっ、おっぱいがしゅりをいじめるよー」

「お、おっぱいって!わたしには姫条茜って名前がちゃんとあります!おっぱいじゃありません!」

「落ち着いて姫条さん!?ここ店内だから!他の人も大勢いるから!」

 しゅりの発言にまたもや席を立って怒る姫条さん。だけど何回も言っている通り、しゅりは他の人には視えない存在だ。傍からみたら、姫条さんが僕に向かっておっぱいおっぱい連呼するという危ない光景だ。

 案の定、僕たちは注目を一心に浴びた。それに連呼していたのが彼女というのが問題だ。姫条さんは学園のアイドル、高嶺の花。学校の男子は勿論、他校から姫条さん目当てでわざわざ僕たちの学校まで見に来る男子も少なくない。そんな姫条さんが僕と二人で昼食、それにおっぱい連呼。これはロイヤルストレートフラッシュが完璧に決まったといっても過言ではない。

「……出ようか姫条さん」

「そ、そうですね」

 かくして、僕と姫条さんは逃げるようにお店を出た。

 その後、僕と姫条さんは駅前近くにある公園へやってきた。僕は姫条さんを送って帰る予定だったけど、姫条さんのほうは僕に何か用件があるらしい。名誉棄損と損害賠償請求だけはなんとしても避けたいところだ。

 中央には立派な噴水が定期的に水を吐き、それを中心に年端もいかない子ども達が遊んでいる。公園は噴水を中心に円状に広がっており、周囲を木々が囲んでいる。いわば木の檻の中に僕たちは現在居るわけだ。

 公園のベンチでしゅりを間に挟みながら座る。僕はコーラ片手に、姫条さんはミルクティーを片手に。しゅりは絵本を読みながら。

「先程は本当にすみません。ああいったことを言われ慣れてなくて……」

「基本的に言われ慣れる人なんていないと思うから気にしなくていいよ。こっちこそごめんね。しゅりも僕以外の人との会話が成り立つから嬉しかったんだと思う。しゅりはほら、この通りとってもいい子だから悪気とかはなくて──」

「ばーか」

「明君、もう一度『嬉しかったんだと思う』から先のセリフを言ってみてください」

 にこやかな笑顔を浮かべる姫条さん。額に筋さえ浮かべていなければ完璧すぎる笑顔だ。

「あー!えっとね姫条さん!しゅりはほんとは嬉しいんだよ!ほら、同性の話し相手ができて!でもしゅりはちょっと人見知りだから──」

「しゅりはあきらさえいればいいよ? ほかになにもいらないよ?」

 もう僕にこの状況を打開する術は持ち合わせていなかった。

 最後の抵抗としてしゅりの頭をコツンと小突く。しゅりはそれすらもスキンシップと受け取ったのか、嬉しそうに頬を摺り寄せてくる。

「ところで姫条さん、話ってなに?」

 元々この公園に来たのは姫条さんから誘いを受けたから。先ほども言ったけど僕はもう姫条さんを送ったら帰るつもりだった。携帯の着信履歴は母さんと佳奈、合計で25回。メールは10通。二人ともメールがもどかしくなって電話に切り替えたのかな。

 僕の母さんは異常なまでの心配性だ。でも僕はそんな母さんが大好きだから、母さんの涙は絶対に見たくない。佳奈だって、わざわざ自分の時間をなくしてまで僕の明日のテスト勉強をしてくれようっていうんだ。僕はそんな佳奈の優しさを踏みにじりたくない。

 そう考えている僕に姫条さんはこんな話を切り出した。

「わたし昔は小さな小さな村に住んでたんです。質素で簡素な村でしたが、村独特の雰囲気と優しさがとても大好きでした。わたしっていまは違うんですけど、小さいときは凄く病弱で他の村の子どもとあまり遊べなかったんですよ。でも、そんなとき一人の男の子がわたしの手を取ってくれたんです。一緒に遊ぼうと声をかけてくれながら。でもその男の子は急に村を出ることになってしまって……それからは連絡が取れませんでした。それから11年。ようやくわたしはその男の子に会うことができました」

 姫条さんのその話にはどこか強烈な既視感を覚えた。まるで僕の記憶を違う視点で見ている気分だ。

「このお話にどこか既視感を覚えませんか?」

 そう聞く姫条さんに僕は頷く。すると姫条さんは嬉しそうな表情を浮かべながら僕にちょっと詰め寄ってくる。

「そうですよね!そうですよね!──だってわたしと明君は同じ村の出身なんですから。11年ぶりですね、明君。ずっとずっと会いたかったんですよー!これはもう運命の出会いですよね!」

 きゃーきゃーと嬉しそうな悲鳴を上げる姫条さん。姫条さんってこういう風にはしゃぐこともあるんだ。……でも僕はそんな姫条さんに酷な発表をしなければならない。きまずい雰囲気が流れることは必須だけど……。

「ま、まって姫条さん!僕は、僕はその話に既視感を覚えるけど……ただそれだけなんだ」

「……へ?どういうことですか?」

 訳が分からないといった顔で小首を傾げる姫条さん。僕は自分の頭の中で必死に整理しながら姫条さんの疑問に答える。

「僕は……自分の住んでいた村の記憶がないんだ。正確にはうまく思い出せないってことなんだけど……とにかく記憶を再生することができないんだ。村での記憶を覚えてないんだ。だから……ごめん」

 何がごめんなのか分からない。それでも僕にはこの言葉しか口を開くことができなかった。姫条さんは僕の顔を無表情で見つめながら問いただすかのように話しかける。

「……もしかしてそれは明君が唐突に引っ越したことと関係あるんですか?」

「ごめん……」

「……明君の隣で呑気な顔をしている女の子は関係してるんですか?」

「ごめん……」

「明君は……本当に覚えていないんですか?わたしのことも、村のことも、明君をリーダーと呼んで遊んでいたことも。わたしとしてくれた約束も」

 無表情から一転悲しそうな表情で僕をみつめる姫条さん。記憶にないのは僕だけで、姫条さんは村のこともいま言ったリーダーとかいうことも、僕がよく知らない約束のことも全部覚えている。僕はいま姫条さんを裏切ったことになる。11年越しに僕は姫条さんを裏切った形になる。

 姫条さんの涙をためた瞳に、僕の心はチクリと痛みをもった。裁縫針でちくちくと刺されるような感覚に囚われる。

『あきらくん!きょうはなにしてあそぶ?』

 あぁまただ。僕の脳裏に幼いころの姫条さんが笑いかけてくる。僕は全く記憶にないのに、僕の海馬には何が記録されているのだろうか。

 必死に思い出すよう努力する。しかしその努力は徒労に終わる。まったくもって何も思い出せない。

 真剣に心配そうに見つめる彼女に、僕は申し訳なさからか蚊の鳴くような声で謝った。

「ごめん……何も思い出せないんだ」

 思い出そうと過去を遡ると、たちまち視界が靄に覆われる。必死に視界を遮る霧を手で払いのけても、こいつらは嬉しそうに僕の周りにまとわりついてくる。

「ほんとにごめん。僕があの村のことで鮮明に覚えているのはしゅりとの出会いだけなんだ。それ以外はうまく覚えてないから、姫条さんが何をいってるのかさっぱりわからないよ……」

 しゅりとの出会いだけは何故か鮮明に覚えている。だけど鮮明に覚えてるのはしゅりとのかかわりだけ。後は記憶がうまく霧で隠されたような感覚だ。

「そう……ですか」

 いまにも泣き出しそうなその表情、それに釣られるように僕は口を開いていた。

「あ、でも!一つだけ、しゅり以外のことでもうひとつだけわかったことがあるんだ!」

「……え?」

「確かに僕は姫条さんと幼い頃に会っている」

 何も思い出すことはできないけど、僕は自分の海馬を信じることにした。記憶にはあるんだ。思い出すのは後でいい。僕はもう誰かが僕のことで泣くところは見たくない。それが姫条さんならなおさらだ。

 そんな僕のカミングアウトを聞いて、泣き顔からようやく笑みがこぼれおちた。あぁ……しゅりや佳奈とはまた違う、とても素敵な笑顔をもってる人だなぁ。

 姫条さんは気取られないようにそっと目元を拭う。僕もそれに合わせるように視線を横へと向け、姫条さんから声をかけてくるまでまった。もういいですよ、の一言を聞いて向きなおる僕。

「えへへ、ちょっと恥ずかしいところ見られちゃいましたね」

「恥ずかしくなんてないよ、涙は人が作れる唯一の結晶なんだから」

「ふふっその歯の浮くようなセリフ、やっぱり明君は変わってないですね」

「ほんと? それは嬉しいなぁ」

 お互いに笑いながら腰を浮かす。そろそろ帰るとしよう。空になったコーラとミルクティの缶をゴミ箱に捨てて公園の出入り口へと足を向ける。

「明君」

「ん?どうしたの?」

 一歩踏み出したところで、彼女は僕に声をかけた。

「怖くないんですか?」

 何がとは聞かない。そんなこと、僕も彼女も分かり切ってることだから。だから彼女はあえて主語を伏せてくれたのだ。だから僕も簡潔に答えよう。

「怖くないよ」

 だって僕にはしゅりがいるから。

「姫条さん、僕からも一ついいかな?」

「はい?なんですか?」

「その……さっきはごめん。校門で大きな声だして姫条さんの肩を掴んで。でも、僕が話したこと、ほんの少しでもいいから心の片隅に残しておいてくれると嬉しいな。勿論、僕は姫条さんに頭を下げてお願いする側だからさっさと忘れてしまっても構わない」

 五郊が手を引いた姫条さん、それなのに姫条さんは僕のくだらない見栄と挑発のせいで再度狙われることになった。売り言葉に買い言葉で危険にまた晒させてしまった。

 完全に僕のせいだ。

「はい、バッチリ心の中に残しておきます」

 頷いた姫条さんに僕は心の中で安堵の息を漏らした。




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